ネオワイズ彗星を求めて
7月初め。私が最近チェックしているmartin heck氏がインスタグラムで「夜光雲&ネオワイズ彗星」のタイムラプスを公開していた。
これを見て今ネオワイズ彗星が遠い宇宙からやってきていることを、私は初めて認識した。調べてみると10年に一度の明るい彗星だという。自分も撮りたいと思ったけれど、今は時期の悪いことに梅雨の季節。居住地はずっと雨で、なかなか観測のチャンスがなかった。
モヤモヤした日々を過ごしていた7月第3週の半ばごろ、windy.comの雲予報を眺めていると金曜日と日曜日の夜に秋田-新潟沿岸部から北西方向が晴れそうだと気がついた。ここに行けば彗星が見られるかも。もしこれを逃したら一生後悔するかもしれない。私は急遽レンタカーを借りて日本海へ出かけるに決めた。
金曜日、早々と仕事を切り上げカメラを携えて日本海へ向かった。目的地は山形県酒田市の眺望の森。Googleで公開されている写真やGoogle Mapで地形などを見る限りでは、ネオワイズ彗星が見える北西方向の眺めが良さそうだった。ここなら見えるだろうと期待しつつ向かった。
到着したのは18:00頃。つまり日の入りまでのおおよそ1時間前、いつものように太陽が沈んでゆく様子をパシャパシャ撮りまくっていた。
太陽が沈む瞬間も撮影していたが、この時の写真を後で確認すると緑色の太陽が写っていた。まさかグリーンフラッシュ?その場では全く気が付かなかったが、偶然に撮れてしまっていたようだ。
その後も彗星が見え始める20:00頃まで、空の美しいグラデーションを撮り続けていた。
20:00を過ぎると徐々に明るい星々が見え始めた。さて彗星はどこかな?北北西の空をぼんやり眺めていると、淡くモヤッとした何かが見えた気がした。これではないか?と思って写真を撮ってみると・・・
バッチリ写っていた。肉眼での明るさの印象は、例えるなら天の川の淡い明るさでしょうか。あれと同じくらいだったので、やはりそれっぽいモヤモヤを見つけたらひたすら写真で写して確認するのが、彗星の一番楽な見つけ方なのでしょう。
彗星を見るという最低限の目標は達成できた。折角だから次はもっと枚数を撮ってコンポジットしようと一瞬思ったが、みんなと同じことをやっても面白くない。そうだ、martin heckを見習って、タイムラプスを撮ろう。
やっぱりタイムラプスは面白い。こうしてみるといろんなことがわかる。彗星は周囲の星とほとんど同じように動いていたし、地平線近くになると光が大気で減衰されて見えなくなってしまうことが確認できた。
タイムラプスを撮っているうちに彗星はすっかり見えなくなってしまったので、帰ることにした。その道中空を見上げると、もう明るくなり始めていた。よく見るときれいな朝焼けが見えそうな空と雲の色。これは撮るしかない。空がよく見える場所で車を停車して、焼けてゆく空を眺めていた。
今回の金曜日夕方から土曜日朝方にかけて立て続けに良いものが見られた。かかった金、時間、労力に見合うものだった。
鮮やかな朝焼けが見られたので理由を考察する
はじめに
私の最終目標はwindy.comの雲予報を使って朝焼け(夕焼け)を予測することです。それを実現するためには、美しい朝焼けが見られる条件を明らかにしなければなりません。果たして空がどんな様子の時に美しい朝焼けが見られるのでしょうか?
先日美しい朝焼けや夕焼けの発生条件について色々と考察しました。
この考察の結果、美しい夕焼け(朝焼け)には以下の条件がありそうだと推測が出来ました。
- 太陽の沈む方向(200-400km?先のある程度の領域)が晴れている。
- 観測地点周辺(0-200km?先のある程度の領域)に上層雲が広がっている。
- 太陽の沈む方向には中層雲や下層雲がほとんどなく光が遮られない。
- 上層雲の程よい厚さ(1000m以下?)。
- 太陽の沈む方向や観測地点周辺の視界が良好で(10km以上?)雲や霧などで光が遮られない。
果たしてこの推測された条件は妥当だったのでしょうか?
6月に入ってすぐの頃にwindy.comの翌日朝の予報を眺めていたら、上記条件に合致しそうな、朝に焼けそうな感じの雲分布だったので、出かけて朝焼けを見てきました。運の良いことに、鮮やかな朝焼けに出会えました。そこで今回は撮れた写真を示しつつ、いつものようにスクリーンショットにとったWindy.comの雲分布等を見ながら、推測の妥当性を検証します。雲がどんな様子の時に綺麗な朝焼けが見られるのでしょうか?
写真
今回の写真は6月某日に宮城県某所で撮りました。まずは撮れた写真を時系列で示します。
雲分布等
windy.comの雲分布予報のスクリーンショットを使って、今回の綺麗な朝焼けに寄与した要因を探ります。ここでは以前提起した夕焼けの条件と照らし合わせながら考えていきます。ちなみにこの時期の太陽は北東方向から上がってきますので、撮影場所の宮城県の北東方向の雲の分布に意識してご覧ください。
雲
windyの雲分布において黄色の領域は雲がほとんどないことを示しています。観測地点から日の出方向に300-400km先、青森県の東方の海上周辺が晴れています。ここから太陽光が差し込んで来たのでしょう。はじめに提起した条件1が当てはまっていると言えそうです。
上層雲
上層雲が東北南部以南を広く覆っています。観測地点から200km先あたりまで上層雲に覆われていて、その先は晴れています。この上層雲が赤く染め上げられるわけです。条件2が当てはまっているのではないでしょうか。
中層雲
太陽のあがってくる方向数100km先に中層雲がほとんどありません。おかげで赤い光が途中で遮られないで届きます。
下層雲
下層雲も気にすべき領域にほとんどありません。これで太陽光を遮るものは何もありません。中・下層雲がほとんどないので条件3を満たしています。
雲頂
雲頂は10600mでそこそこ高いところに広がっているようです。
クラウドベース
クラウドベースは10500mということで、雲の厚さは100mくらいでしょうか。場所によるとは思いますが、状況を鑑みれば、高いところに薄い雲が広がっている事は確かなようです。条件4に当てはまると言えそうです。
視界
視界は十数kmあって悪くないようです。条件5の視界の良さも満たしていそうです。
ここまで雲分布等から読み取れたことを総合すれば、はじめに提起した美しい朝焼け夕焼けの条件は、見当違いではないと思われます。朝焼け夕焼けを予想するのにwindy.comの雲分布はある程度参考になりそうです。
あとがき
とはいえwindy.comの雲分布等を見て、条件を満たしていると思えた時でも100%このように焼けたわけではありませんでした。何か考慮から漏れている朝焼け夕焼けの条件があるようです。一応イマイチだった時の写真とwindyのスクショはとってあるので、後ほど考察する予定です。現時点の推測では、空気のチリホコリ或いは水滴が多過ぎて、ミー散乱で白っぽく色がくすんでしまったのだと考えています。だとすれば雲分布だけでなく、レイリー散乱やミー散乱を起こす大気中の分子や微粒子についても真面目に考えた方が良さそうです。理想としては雲分布だけで焼けるか否かの判断が出来れば楽なのですが、そう単純ではないようです。本当に朝焼け夕焼けは奥が深いものです。
Windy.comを使って美しい朝焼けや夕焼けを予測したい
Windy.comで事前に調べた雲分布を利用して、美しい夕焼け(朝焼け)空の予測に挑戦します。ここで言う美しい夕焼けというのは、広がる雲が赤・オレンジの光に照らされているような空です。実際に予測するには美しい夕焼けが起こる条件を知っている必要がありますが、一体どんな条件が揃ったときに美しい夕焼けが見られるのでしょうか。今回は実際に夕焼けが見られた時に保存しておいた雲分布などを利用しつつ、その条件とは何か考察していきます。
Windy.comを利用する
美しい夕焼けを狙って撮るには、美しく焼ける条件を明らかにする必要があります。その条件とは何かを考えてみると、常識・経験・直感から、
- 雲が空一面を覆っている。
- ただし太陽の沈む方向の地平線近くの空は晴れている。
- 光の通り道を遮るものはない。
などが考えられます。ですから雲の位置・高度・厚さなどを調べれば美しく焼ける条件が分かりそうですが、具体的に雲がどうなっていれば良いのか見当がつきません。そこで私は美しい夕焼けが撮れた時の雲分布のスクリーンショットを保存しておき、雲分布に特徴的なパターンが無いか後から考察することにしました*1。この時雲の分布等の予報を得るために利用したのがwindy.comというウェブサイトです。
windy.comに飛ぶと風を可視化した粒子アニメーションのマップが映し出されます。 右側の項目から雲の高度ごとの分布なども見ることができますが、デフォルトでは一部レイヤーがOFFになっていて選択できません。このままでは不便なので、夕焼けの予測に役立ちそうなレイヤー(上層雲、中層雲、霧、雲頂)をONにして項目から選択できるようにしておきます。
試しに雲のレイヤーを表示します。マップの色は覆われる雲の割合を表現しており、黄色(雲0%)<灰色<白(雲100%)の順になっています。雲の割合を知りたい場所をクリックすると、その地点のパーセントが表示されます。
分布を見られるようになったところで夕焼け撮影に出かけ、日没時刻頃の雲分布のスクリーンショット(雲、上層雲、中層雲、下層雲、雲頂、クラウドベース、視界)を記録したいと思います。しかし、どの程度の範囲までスクリーンショットに収めればいいのかわかりません。予め考慮すべき雲の範囲に当りをつけておく必要があります。一体何km先の雲までが夕焼けに関わる雲なのでしょうか。
非常にラフな推測ですが、地球のジオメトリから考えて、太陽光が大気圏に入ってから高度10kmにある雲の下面に当たるまでに通過する距離はおよそ370km(マゼンタの線)。時間帯や雲の高度によってはもっと短いと思いますが、最長でこれだけの距離を太陽光は通過してくると推測できます*2。したがって考慮すべき雲分布の範囲は、マージンをとって観測地点から日の入り方角へ向かって400-500km先まで程度と考えられます。
よって雲分布は本州の1/3が収まるくらいの範囲でスクリーンショットをとるのが良さそうです。また出かける前には日の入りの方角を日の出日の入時刻方角マップあたりを使って把握しておきます。さて準備が整ったところで夕焼けが見られるチャンスが巡ってきました。早速実践してみます。
5月末に見た夕焼け
夕焼け写真
今回は山形県某所から夕焼けを撮影しました。空全体が赤紫色に染まる夕焼けに遭遇したのは久しぶりです。撮って出しでこの色です。こんな空は年に数回しかお目にかかれません。
雲分布などのスクリーンショット*3
この時に記録したスクリーンショットはこちら。これを材料にして、夕焼けの美しさに寄与している要素を探していきます。
雲
この時期の太陽の沈む方角は北西方向でした。山形県の北西300kmほど先の日本海上は晴れていたようです。 この隙間から太陽光が差し込んだのでしょうか。次は高度ごとの雲の様子を見ていきます。
上層雲
上層雲は手前の空一面をがっつり覆ってしまっています。こんなんで大丈夫かと思いましたが、この高い雲がキャンバスの役割を果たすのでしょう。
中層雲
北西100km以遠の中層雲はほとんどなかったようです。このおかげで雲間から差し込んできた太陽光が遮られずに届いたのでしょう。
下層雲
下層雲もほとんどなかったようです。
雲頂、クラウドベース
雲頂は8200m付近、クラウドベースが7500m付近だったようです。このくらいの雲の厚さがちょうどいいのでしょうか。
視界
あれだけ曇っていた割に視界はそこそこ良好だったようです。
夕焼けの条件
今回得られた知見を総合して夕焼けに寄与した要素をまとめると、大雑把にこんなものだと思います。
- 太陽の沈む方向(200-400km?先のある程度の領域)が晴れている。
- 観測地点周辺(0-200km?先のある程度の領域)に上層雲が広がっている。
- 太陽の沈む方向には中層雲や下層雲がほとんどなく光が遮られない。
- 上層雲の程よい厚さ(1000m以下?)。
- 太陽の沈む方向や観測地点周辺の視界が良好で(10km以上?)雲や霧などで光が遮られない。
このようにしてwindy.comの予報を参考にすれば、ただ空を眺めて夕焼けを予想するよりも打率が上がるのではないでしょうか。私は今後も美しい夕焼けが見られる度に雲分布から条件を考察して、同様にまとめて行くつもりです。何度も繰り返していけば、もう少しはっきりしたことが言える日が来るかもしれません。
最後に、当然ながらここまで書いてきたことは私の考察に過ぎず、最後に示した夕焼けの条件の妥当性を何一つ保証できません。かなり物事を単純化して考えてきたので、間違いを多々含むと思います。仮定・認識・論理展開に誤りがあるなどといったご指摘がありましたらコメントいただければ幸いです。
*1: 本気でやるなら雲分布と夕焼け写真のセットをたくさん用意して何かしらの相関を炙り出すのが出来れば面白そうだが、そこまでやる気はないので暇な誰かがやってください。
*2:推測するにあたっては、地球半径を6372km、対流圏の厚さを10km、大気での光の屈折を考えない、地球に凹凸がない、雲が高度10kmに広がっているなどと色々と仮定を置いています。
*3:windy.comのTerm of Useを読む限り、スクリーンショットを貼り付ける場合、ソースを明示して(ex. 'Source:Windy.com')、このようにwindyのwebsiteへのハイパーリンクを付ければ良さそうですが、もし問題があればスクリーンショットを削除します。